福岡高等裁判所 昭和25年(ネ)261号 判決
被控訴人は控訴人に対し金拾壱万円及びこれに対する昭和二十三年四月一日以降完済まで年一割の割合による金員を支払うべし。
控訴人その余の請求はこれを棄却する。
訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。
この判決は控訴人勝訴部分に限り控訴人において金四万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
二、事 実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金十一万円及びこれに対する昭和二十三年四月一日以降完済まで月一割の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決並びに担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、控訴代理人において、(一)控訴人は金融業者であつて貸金業の取締に関する法律によつて昭和二十四年十二月五日貸金業届出書を福岡財務部佐賀支部長に届出で受理されているから、当審において請求の趣旨を拡張し約定に基く月一割の遅延損害金の支払を求める。(二)訴外池田彌市は訴外永淵イク子名義で控訴人より本件金員を借受ける代理権限を右イク子より与えられていたものである。仮に然らずとしても右池田は永淵イク子より金十万円を他から金借する代理権を与えられていたのであるから、右イク子は民法第百十条により本件貸借につきその責を負わなければならない。仮に然らずとしても右永淵イク子は昭和二十二年十二月頃控訴人に対し本件消費貸借契約を追認した。以上の通りであるから仮に被控訴人の本件債務が保証債務であるとしても被控訴人は本訴請求に応ずる義務がある。況んや被控訴人の本件債務は連帯債務であるから右永淵イク子の債務の効力如何は被控訴人の本件債務に何等の影響がない。(三)本件金員は右池田彌市が自己のために使用する目的で借受けたもので、その支払も同訴外人の責任においてなすものであることは控訴人及び被控訴人共これを了知したところであつて、本件消費貸借は右池田と控訴人間に成立し、被控訴人において右池田の債務につき保証をなしたものであるから、右事実を請求原因として予備的に附加主張する。(四)以上の主張が全部理由がないとすれば、右池田彌市は永淵イク子の無権代理人として民法第百十七条第一項により本件消費貸借につき履行の責があり、右池田はこれに基き昭和二十三年五月十三日控訴人に対し改めて本訴金十一万円を同年七月末日までに支払を約し、被控訴人は同年六月二十一日右池田の債務につき連帯保証をなしたから、右事実をも請求原因として予備的に附加主張する。(五)被控訴人の代物弁済の主張はこれを否認する。尤も永淵イク子所有の本件宅地建物につき所有権移転請求権保全の仮登記がなされている事実はこれを認めると述べ、被控訴代理人において、(一)訴外永淵イク子は本件貸借には全く関係がない。訴外池田彌市が右イク子の印章を不正に使用して本件借用証書を作成したものである。従つて池田が控訴人に貸借上の債務があるとしても被控訴人にはその責任がない。被控訴人が右池田の債務について連帯保証をなした事実は全くない。(二)仮に然らずとしても右池田彌市は本件債務につき昭和二十二年十月以降昭和二十三年三月二十日までの間に合計金九万四百四十円を支払済であるから利息金二千三百十円(元金十一万円に対する貸付日より昭和二十三年三月まで年五分の割合による)を差引いた残金八万七千九百十円を右元金より控除すべきである。(三)原判決書二枚目裏一行目に甲第三号証の一とあるのを甲第三号証の二と訂正すると述べた外、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用することとする。
<立証省略>
三、理 由
成立に争のない甲第二号証、同第三号証の三、四、同第四号証乃至同第八号証、被控訴人名下の印影の成立につき争がないから被控訴人関係部分については真正に成立したものと認める甲第三号証の二を綜合すると、訴外池田彌市は昭和二十二年十月二十七日訴外永淵イク子の代理人名義を以てイク子所有の佐賀市水ケ江町片田江小路千六百五十一番地所在宅地六十六坪三合五勺及び同所建設木造瓦葺二階建住宅一棟を担保物件として控訴人より金十一万円を利息月一割弁済期同年十一月二十日の約定で借受け、被控訴人がその連帯保証をなした事実を認めることができる。右認定に反する部分の原審証人木下忠治、当審証人木下必諦子、原審並びに当審証人立石仙二郎の各証言、被控訴本人の当審における供述は措信し難い。よつて右池田が前示貸借をなすにつき永淵イク子の代理権を有していたか否かについて検討するのに、前顕甲号各証に成立に争のない乙第九、十号証、同第十三号証、原審並びに当審証人永淵イク子の証言を綜合すると、右池田彌市は昭和二十二年八月頃より前記永淵イク子と内縁の夫婦関係を結んでいたものであるが、同年九月中右イク子の承諾の下に同人所有の前記宅地建物を担保として訴外共立産業有限会社(代表者立石仙二郎)より金六万円を借受けこれを借財の支払等に充当したが、その後更に他より借金の返済を督促せられ、これが支払に窮した結果、右イク子より代理権限を与えられていないのに拘らず同人に無断で同人名義を冒用し控訴人との間に叙上の如き消費貸借契約を締結したものであることが認められる。そうすると右消費貸借は代理権のない者によつて締結されたものであるから本人たる永淵イク子の追認がない限り同人に対しその効力を生じないのであるから、進んで控訴人主張の追認の事実の有無について考えるのに、当審証人陣内又三、富永治一郎、立石仙二郎の各証言、控訴本人の当審における第一回の供述、被控訴本人の当審における供述、成立に争のない乙第九号証を綜合すると、控訴人が昭和二十二年十二月頃被控訴人と同道の上永淵イク子宅に赴き同人に対して本件債務の支払を請求した際、同人は前示消費貸借契約を追認して支払の猶予を乞い、同月中池田彌市を同伴して長崎県五島方面に金策に赴いたが失敗に帰したので、翌二十三年二月頃控訴人に対し重ねて支払の猶予方を懇請した事実が認められる。右認定に反する原審並びに当審証人永淵イク子の証言部分は前顕各証拠に照して措信し難く、他に何等の反証がないから、前示消費貸借契約は右追認により本人たる永淵イク子に対し有効に成立したものというべく、従つて右債務についてなされた被控訴人の連帯保証も亦有効であるといわなければならない。
被控訴人は本件借用金については現実に現金の授受がなされていないから消費貸借は成立していない旨抗弁するけれども、原審並びに当審証人立石仙二郎と右池田彌市との間に金十一万円の貸借金員の授受が現実になされたことが認められ、右認定に反する乙第六号証中の記載部分は信用し難いから右抗弁は理由がない。次に被控訴人は前記永淵イク子において同人所有の前示宅地建物を本件債務の代物弁済として控訴人に交付したから本件は既に消滅した旨主張し、右不動産につき控訴人が所有権移転請求権保全の仮登記を経由したことは控訴人の自認するところであるが、右事実だけでは代物弁済の事実を認め得ないこと勿論であつて、他に右抗弁事実を認めるに足る証拠は存しないから右抗弁も理由がない。更に被控訴人は本件債務に対し昭和二十二年十月以降翌二十三年三月二十日までの間に金九万四百四十円を池田彌市より支払済であり、その一部を法定利息に充当した残額金八万七千九百十円は右元金より控除さるべきであると抗争するけれども、この点に関する乙第十二号証の記載、当審証人木下必諦子、池田彌市の各証言、被控訴本人の当審における供述は信用し難く、他にこれを認めるに足る証拠がないから右抗弁も採用しない。
以上の通り被控訴人の抗弁はいずれもその理由がないから、被控訴人は控訴人に対し本件消費貸借に基く元金十一万円の支払義務があることが明かである。よつて最後に右元金に対する月一割の割合による遅延損害金の支払を求める部分の当否について考えて見るのに、商事債権については利息制限法第五条の適用がないので、当事者間において期限後の損害金として利息制限法第二条の制限を超える利率により賠償をなすことを特約した場合はその特約に従つて賠償額を定むべきであるが、唯約定利率により賠償額を算定するに過ぎない場合は右に所謂賠償額の特約があつたものとはいい得ないから結局民法第四百十九条第一項により約定利率が法定利率を超えるときは利息制限法第二条の制限に引直した利率により賠償額を定むべきものであると解すべきところ、本件消費貸借契約においては約定利息を月一割と定めたのみであつて期限後の損害賠償額については特約がなかつたことは前段認定の通りであるから、仮に本件債務が商事債権であるとしてもその遅延損害金の請求は利息制限法第二条により年一割の利率に引直した限度においてのみこれを認容すべきものと解する。よつて控訴人の本訴請求は被控訴人に対し金十一万円及びこれに対する昭和二十三年四月一日以降完済まで年一割の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてこれを正当として認容し、その余は失当として棄却すべく、右と趣旨を異にする原判決は不当であつて控訴は理由があるから民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条、第九十二条、第百九十六条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 小野謙次郎 竹下利之右衛門 中園原一)